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執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第7回



 地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


 第7回2022年10月掲載のコラムを、以下に転記します♪(第6回はこちら


 「山陰中央新報」購読者の皆さん、今年もぜひ紙面をチェックしてください♪


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2022年10月掲載


羅針盤 暮らしの質を上げる 消費行動の変革必要

タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉格


 前回のコラムで書いた大けがの後、体力をつけるために散歩を習慣づけている。自宅に近い石谷家住宅の前を歩くとき、先人たちの民芸運動について思いをはせる。


 民芸の影響もあり、最近の私は買い物のとき、「よし、買うぞ!」と決めてから、最後に値段を見るようにしている。値段を最初に見ると、本当に欲しいモノ、価値あるモノが判断できない気がする。それに、私のような職人こそ、品質を見極める目を養わなければ、より良いモノづくりができなくなると思う。


 現にこれまで、最初に値段を見たために購入を諦めたモノがたくさんある。一方で、最後に値段を見るようにしてから、「コレいいなあ!」と思ったモノが高価なほど、少しは目が肥えたかなあ…とうれしくなる。


 ところで先日、店にオーストラリアからお客さまが来てくれた。ご夫婦と小さなお子さんの4人家族。奥さまは鳥取出身で、コロナ禍を経て3年ぶりの帰省、夫婦とも飲食の仕事をしているという。


 彼らが帰国して驚いたことは、とにかく物価が安いこと。奥さまは鳥取で暮らしたいという思いも抱えているが、これだけ物価が安い日本で飲食店を開業したとしても、2人の子どもを育てていける自信がない…という結論に至ったようだ。もはや子どもの7人に1人が貧困という日本、そう思うのも無理はない。


 実際、オーストラリアの最低時給は約2千円、彼らのような技術職はもっと高給だ。


 そこで私が提案したのは、海外から見たら驚くほど安い鳥取の物件を買い、基本的にはオーストラリアで暮らして稼ぎ、冬(日本は夏)の間に帰省する…というスタイルだ。


 私は若い頃、日本は世界でも生活水準が高いと思い込んでいたが、その神話はパン屋を始めてからこの15年の間に崩れていった。例えば、オーガニックの輸入食材がどんどん入手困難になっていく理由を商社に尋ねると、中国など急成長している国が高価格で買いつけるようになったからだという。


 一方で、ここ30年間物価の上がらない日本は安く買いたたくので、市場としての魅力を失った。これからますます入手困難になるから、私たちは対応策を練らなければならない。


 どんな時代も暮らしに必要なモノさえ入手できれば、人々は生きていける。そしてモノの質が上がれば、暮らしの質も上がる。その質を支えるのは消費行動だ。世界に比してわが国の物価も給与も上昇しなかった一因は、安さだけを求める消費行動にあるのではないか。


 今こそ生産も消費も、「暮らしの質を上げる」という目的に向かうべきだと、私は思う。


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