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  • 執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第15回

更新日:6月8日



 こんにちは、女将の麻里子です。


 さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜一面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


 第15回2024年5月19日掲載のコラムを、以下に転記します♪


 次回は2024年7月21日掲載予定です。「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてください♪


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 壮大な夢を「自分事」にできるのは、最初はたった一人かもしれない。しかし多くの人々がその一人に感化されていくと、「町」という大きな単位でさえ変えることができる。先日、大田市大森町を訪問して、それを確信した。


 15年ほど前、『起業は山間から-石見銀山 群言堂 松場登美』(森まゆみ著、バジリコ)という本を読んで以来、私は大森町を幾度か訪れている。過疎の町で「群言堂」というブランドを生み育ててきた登美さんは、いくつもの古い家屋を再生してきた。


 土壁、かやぶき屋根などを伝統工法で再生することは、途絶えかけている技術を次世代につなぐことでもある。朽ちかけた家を何十年もかけて直す過程で多くの人が巻き込まれ、町を自分事として捉え始める。結果として、大森町ならではの品位ある景観が維持されている。


 100年先を見据え、美しい景観や技術の存続のために莫大(ばくだい)な手間とお金をつぎ込めることは、登美さんの天賦の才能と思う。知識や時間やお金を、多くの人は「蓄積」しようとするが、それらをうまく「使う」技術を持つ人は少ない。だが本当はいかに「使う」かが大事ではないか。


 16年前に千葉県でパン屋を起業した時、私たち夫婦は「ナチュラルライフマーケット」というイベントを始めた。自らの事業だけでなく、他の作り手と共に、自然環境と社会環境をより良くするお金の地域内循環をつくりたいと考えていた。


 そこで、実際に米国ではローカルでエコロジカルな思想の下にルールを設けたマーケットが開催されているという知識を基に、私たちのマーケットでも販売するモノにさまざまなルールを設けた。そしてイベント出店を主な生業とする作り手より、実店舗を持つプロ同士がつながるきっかけにしていきたいとも考えた。


 基本的なルールは「手作り」であり、自然に即した原材料を使うこと。例えば食べ物では、「近隣で生産された農産物を使う」「油や調味料も伝統的な製法で作られたモノを使う」など


だ。このマーケットは多くの消費者の信頼を得て、3年間で5回開催、最終的には出店者100、来場者5千人までに成長した。


 しかし意外だったのは、出店者の中に、ルールに不満を持つ人たちがいたことだった。「ナチュラルライフマーケット」のコンセプトを支持するお客さんが多いのは来場者数から明白だったが、結局は作り手側がその真意をつかめないのだと感じた。


 「自分事」にできる個が集まってできる独創性のある町と、独創性をお金もうけの手段として人ごとにしている個が集まる町では、結果が変わってくるだろう。


 私はこのマーケットを経て、改めて自らの事業を深く見直した。そして他事業者とのつながりに力を注ぐよりも、自らの責任で「個」を強くすることを目標に、これまで走り続けてきた。しかし面白いことに私たちのいる鳥取県智頭町には今、町を「自分事」として捉える人が増えている。100年先を見据え、町が動き始めたように感じている。


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