あけましておめでとうございます!女将の麻里子です。
さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。
第12回2023年12月31日掲載のコラムを、以下に転記します♪
次回は2024年3月3日(日)掲載予定です。「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてください♪
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2023年12月掲載
羅針盤 良い発酵は「場」が不可欠
タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉 格
あっという間に過ぎ去った2023年。自分が書いた今年のコラムは体調不良の話題ばかりだったが、大みそかにその言い訳をさせてほしい。
実はこの1年、多大な重圧とストレスがあったのだ。それは、タルマーリーの拠点を移すという大仕事だった。
私たちは智頭駅から車で10分の那岐という地区で、廃園になった保育園を改装し、15年からパンとビールを作り、カフェを営業してきた。
しかし22年春、駅から800メートルの場所に、カフェとホテルを併設した新店舗をオープンした。そこは「石谷家住宅」など、宿場町の風情が残る「智頭宿」のある地区で、ここ数年で新しいゲストハウスやクラフト工房などが、次々と立ち上がっている。
そして23年春、タルマーリーは那岐の店を閉め、販売とカフェは新店舗に集約した。更にパン工場もそのすぐ近くに移転することに決めた。
新しいパン工場の物件はなんと、私たち家族が住んでいた2階建ての古民家…。高校3年生の娘が大学受験を控えているにもかかわらず、春にせわしなく(無理やり)引っ越した。
それからすぐに改装工事を始め、秋には機械も運んで工場の機能を移転した。タルマーリーを起業してから3回目の工場の引っ越しだったが、オーブンなど大きな機械の運搬はいつも多大な緊張感を伴う。そんな中で仕事を全うしてくれたスタッフには、感謝しかない。このように、かなりスピーディーで、濃密で、そしてむちゃな1年だった。
どうしてこんなに大変なことを急いでしなければならないのか。それに、自然豊かな場所から駅に近い街中へ移転したら、発酵条件は悪くなるのではないか…。確かにそうかもしれないが、私は20年先を見据えて、今が動くタイミングだと判断した。
日本が人口減少時代に突入してはや15年、智頭町も驚くべきスピードで過疎化が進んでおり、私たちがこの町に住み始めた8年前から毎年、100人のペースで人口が減っていく。そして23年にはついに、町から路線バスとタクシーがなくなってしまった。
われわれはこの8年、地域内循環を目標に野生の菌でパンとビールを作り、素晴らしい農家の方々から材料を仕入れられるようになり、その農産物を加工するための機械にも投資してきた。さあ、これからさらに良い発酵を整えるために必要な条件は何か…。それは「人」が豊かに暮らせる「場」をつくることだと思い至った。
私たちが実践している伝統的な発酵には、「人」が大きく関わっている。微生物の動きには人の感情が大きな影響を与えるのだ。発酵に関わる人が穏やかに、暮らしを楽しみながら修業ができる「場」。それが智頭宿のエリアだと判断し、拠点を移した。
小商いはただ生き残るだけでも大変な時代だが、私はここでより魅力的な町をつくり、なんとか過疎を食い止めていきたいと思っている。実際に、そのビジョンを共に描く仲間たちとさまざまな動きが始まっているのだが、それはまた来年に筆を改めるとしよう。
それでは皆さん、どうぞ良いお年を…。
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