「菌の声を聴け」(渡邉格・麻里子 著 ミシマ社)が出版された2021年5月末から、5ヵ月が経ちました。
そして今月11月初め、なんと韓国語翻訳版
《시골빵집에서 균의 소리를 듣다》(出版社 theforestbook)
(田舎のパン屋で菌の声を聴く)
が出版されました!
早速、日本の私たちの手元にも実物が届き、感動しています~。
写真もたくさん掲載していただいて、とても嬉しいです♪
そしてこの度の韓国語版には、わたくし渡邉麻里子が前書きを書きました。
その文章を以下に掲載いたします。
韓国の皆さん、ハングルを読める皆さん、ぜひ《시골빵집에서 균의 소리를 듣다》読んでみて下さいね!
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「菌の声を聴け」韓国語版の前書き
親愛なる韓国の皆さん、お元気ですか。渡邉格の妻、麻里子です。
2019年秋にソウルを訪れて以来、訪韓できないこの2年間はとても寂しい想いで過ごしましたが、この間に夫婦で新しい本を書きました。そしてまた韓国で翻訳されたことを、心から嬉しく思っています。
前作『腐る経済』が2013年に出版された当初は、まさか韓国でベストセラーになるとは誰も予想していませんでした。マルクスの「資本論」の実践に挑むパンづくりを描いたとはいえ、私たちは学者でも作家でもなく、あまりにも経験の浅い素朴な田舎のパン屋でした。大海原に放り出されたような心細い気持ちでしたが、メディア取材や講演活動をなんとかこなしながら、必死で世の期待に追いつこうともがいていました。
この8年を改めて振り返ってみると、ここまで私たちを育ててくれたのは、何よりも韓国の読者の皆さんだと思います。
2015年秋、The soupさんの招待でソウルを訪れた私たちは、数々のメディアから取材を受け、トークイベントに出演しました。あのときの熱気を忘れません!本当にたくさんの方々が「腐る経済」を熱心に読んで下さったのだと知りました。
しかしあの頃の私たちはあまりにも無知で、思い出すと恥ずかしくなります。韓国の歴史や文化についてほとんど何も知らないまま訪韓したにも関わらず、皆さんが私たちに敬意を払ってくださったことに、改めて感謝を申し上げます。
それから毎年、子どもたちも一緒にソウルを訪れるようになりました。私たち家族の一番の関心は、やはり食です。外食はもちろん、食材を買ってコンドミニアムのキッチンで料理をして食べたことは、とても楽しい思い出です。
ソウルで驚いたことは、良質なオーガニック食材がどこでも買えること。特に肉や乳製品などオーガニックの畜産物は、日本ではほとんど手に入らないのですが、ソウルでは普通のスーパーでも売っていて、驚くと共に羨ましく思いました。それに特別なレストランでなくても、素材を丁寧に料理した家庭的な味を提供しているところが多く、日本よりも伝統的な食文化が残っているなあ、と感じました。
娘のモコは中学生になるとBTSの大ファンになり、韓国に大いなる関心を抱き始めました。ちなみに現在高校1年生の彼女は、大学生になったら韓国に留学したいという夢を抱き、韓国語の勉強を日々楽しんでいます。
彼女のお陰で私たちも韓国の映画やドラマ、小説を楽しむようになり、やっと自らの無知に気づいたのです。大日本帝国による統治、独立闘争、朝鮮戦争、光州事件…。多くの犠牲を伴いながらも韓国市民は運動を続けて民主化を成し遂げてきたこと。そして「ろうそく革命」では、市民の民主的な意識が日本よりもずっと高いことを、身をもって知りました。
日本が韓国の人々にどのようなことをしてきたのか、私たち日本人は歴史的事実を意図的に知らされてきていない…。恥ずかしながら、そのことを数年前に知りました。しかしそのお陰で、あらゆる世界を様々な立場や角度からとらえる必要性を痛感し、それはこの本を書く態度にも大きく影響していると思います。
同世代の韓国の友人が、
「母親世代はキムチを漬けるけど、私の世代はもう漬けないです」
と教えてくれました。それを聞いて私はこう答えました。
「ああ、日本と一世代違うのですね。私の祖母は白菜を漬けていましたが、母は漬けないです」
この本では伝統的な職人技や子育てにおける身体性を話題にしていますが、私はこの漬物という発酵文化の状況から、日本の一世代くらい前の身体性が、韓国の人々には残っているとイメージしました。もちろん、現代の行き過ぎた資本主義の弊害は日韓共通の社会問題になっていますが、それでも、日本人がもう忘れ去ってしまった大切な宝物が、韓国の人々にはまだ残っているかもしれないと感じるのです。
さて、皆さんはこの本をどのように読んで下さるでしょう。私たち家族みんな、また韓国を訪れることができる日を、心より楽しみにしております。
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