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「とっとりとりどり」タルマーリー滞在記

  • 執筆者の写真: Mariko Watanabe
    Mariko Watanabe
  • 4月12日
  • 読了時間: 7分

こんにちは、女将の麻里子です。

さて、今日は素敵な文章のご紹介です。


京都の本屋さん「恵文社一乗寺店」が毎年、鳥取の手仕事を紹介するイベント「とっとりとりどり」を開催してくださっているのですが、今年は鳥取での体験を冊子にまとめて届けてくださいました。その中で取り上げて下さったタルマーリー滞在記があまりにも素敵だったので、筆者であるスタッフ藤原さんのお許しをえて、こちらに掲載させていただきます(下記)。


特に、タルマーリーのホテルに宿泊してくださったからこそ!の、体験や感覚を描写していただいて、とても嬉しいです。


ちなみに冊子は因州和紙で作られています。50部しか刷られていない超限定品、タルマーリーのカフェで実物を手に取っていただくことができますので、ご来店の際にぜひどうぞ。

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麹の降るまち 野生の菌がつなぐ循環

パン屋・タルマーリー やどり木の家にて

〈工房見学&宿泊〉   


◇再訪


初めて「タルマーリー」を訪ねたのは2022年の冬。当時一棟貸しホテル「やどり木の家」はオープン前で、女将の渡邉麻里子さんに無理を言い、特別に中を見せていただいたのでした。1946年造の古民家をリノベーションしたという高い天井とクラシカルな内装、そして隣のカフェスペースのど真ん中でライトアップされた本物の「井戸」を見て、いつかの旅宿は何としてもここに、と心に決めた私たち。念願叶って二年半ぶりに訪れると、なんと旧・那岐小学校にあったパン工房がまるごと移設されており、オーナーの渡邉格さんに工房見学をしていただきながら、タルマーリーの新たな展望をお聞きすることになりました。

 

タルマーリーのパンづくりは、空気中から野生の菌を採取するところから始まります。方法は至ってシンプルで、竹の皿に蒸した米を盛り、それを数日置いて麹菌が降りてくるのをただじっと待つ。もちろん都合よくお目当ての菌が採れるわけではありません。麹菌は特に空気が澄んでいる時でないと単体で採取できず、例えばお盆休みで車の排気ガスが増えると灰色のカビ、農薬散布のあとは黒カビも一緒に降りてきてしまうのだそう。

※詳しくは既刊の著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)、『菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』(ミシマ社)を是非読んでみてください。


工房を移転するということはつまり、菌を採取する環境がまるきり変わってしまうということ。採取が可能かどうかは、その土地で実際にやってみなければ分からないのです。これほど大きなリスクを抱えながらそれでも工房を移転させたのは、「石谷家住宅」など美しい伝統的町並みが残る智頭宿エリアにパンづくりの機能を集約し「野生の菌による発酵環境を守りながら、地域内循環を作っていく」というコンセプトを実現させるため。現在は「個人の利益追求」と「環境活動」が循環の輪から外れてしまっていると格さんは言います。タルマーリーはこの土地で、菌を採取するために環境を整え、パンをつくり、販売する。そこでは個人と地域の利益がひとつの大きな輪の中で共存しています。



◇パン工房見学


宿と工房を繋ぐのは疎水沿いの小道。仄暗がりのその道が何となく見慣れた景色に似ているような気がして、懐かしさの正体を考えます。恵文社一乗寺店のすぐ裏の疎水や京都市内をずどんと流れる鴨川……ひょっとすると、町の中に水の流れがあることに安心しているのかもしれません。環境は菌だけでなく私たち自身にも確実に影響を与えているんだなぁとぼんやり考えながら歩きます。

 

まるごと移設したパン工房というのは、小道を抜けた先の大きな古民家でした。驚いたことにもともと築50年の自宅だったものを、職人さんの手を借りながら格さんご自身でリノベーションをしたのだそう。しかも、空間に今までいた菌を殺さない(活かす)ため、できるだけ新しい材木は使用せず床材や階段部の材を再利用して作られており、さらに菌にとって良い環境を整えるため、天井には200キロの炭を敷き詰めたのだといいます。

説明を聞きながらくらくらしてしまう私たち。

「子供が帰ってきたら、家が無い!って言ってね」と笑いながら話す格さんはやっぱりちょっとクレイジーだ……と思いました。けれど、忙しい合間を縫って私たちを案内し、新しい工房で採れた麹菌(素人の目にはきれいな緑色に見えましたが、まだ純度が足りないのだそうです)を紹介する格さんの表情を見ていると、私たちまでわくわくしてしまいます。目に見えない菌たちとの対話を試みる苦労は計り知れないけれど、追究し続けることをたのしむ、そんな職人さんの格好よさに、私たちは再びやられてしまうのでした。


麻里子さんから朝食用のお取り置きパンを受け取ります。ごつごつした紙袋はおっと声がでてしまうほどずっしり重たくて。種類はおまかせなのでどきどきしながら中を覗くと、バゲット・タルマーリー、オレンジブレッド、レーズンブレッド、田舎パン、食パン、それから大好きな蜂蜜ブレッドまで!この重みが嬉しくて、何となく両手で抱えなおします。何がこんなに嬉しいのかしら。質量の大きい小さいの問題ではなく、実際に存在するものと存在しないものが続々と入り乱れていく世の中で、この重みは自分の身体で実感のできる確かさだからなのかもしれません。面倒な質量にどうしても愛着を持ってしまうのは、私たちが腰に湿布を貼りながら本を売る理由のひとつでもあるのかもしれません。



◇宿泊体験


町で暮らすように過ごす「アルベルゴディフーゾ」(分散型の宿)を実現していきたいという思いでオープンした「やどり木の家」。長期滞在もできるようにキッチンには調理道具や食器が一通り備えられていて、調味料セットをレンタルすれば十分自分たちで簡単な調理が出来るようになっています。杉板の床が気持ちよくて、ぺたぺたとはだしで歩きます。寝室にはその杉板が天井まで続き、そこから吊るされるのはアンティークの大きなシャンデリア。洗面と広いお風呂には可愛らしいマジョリカタイル。壁に埋め込まれた素敵なステンドグラスは格さんのお母さまの作品です。


智頭町の朝は、8月とは思えないほど涼しいものでした。起き抜けにいそいそとパンを切ります。自家焙煎のコーヒー豆でカフェオレを作り、そのままかじる用のパンをちょっとよけたら残りをオーブントースターに。折角なので外で食べようかと、てんこ盛りのお皿を広いデッキテラスに運びます。

そのままのパンとこんがり焼いたパン。それぞれに本当においしくて!閉じていた内側の感覚がぐんぐん開いていくような心地良さと共に、何故か二人して仕事のアイデアがぽつぽつ浮かびました。隣家の瓦屋根を行き来する小鳥に目をやりつつ、奥の山からは京都では聞いたことが無いような鳴き声をいくつも耳にします。幾分強くなった日差しにはっとして時計を見ると、時間にはまだ余裕があって、普段の感覚とのずれを感じます。時間がないないと言いながら、私はいつも早回しをしているのかもしれません。わが家だって山の麓で、毎朝何羽もの鳥たちがさえずっているはずなのですが、その声を思い出すことができません。

 

午前7時すぎ、宿を出て工房を覗きに行きます。通り沿いの壁は一部がガラス張りになっており外から作業の様子を覗くことができるのですが、パンはとっくに成形されオーブンに投入されていました。またわがままを言って中に入れていただく私たち。焼型からのぞくふくらみを見つめながら、これが空気中の菌をもとにできているなんてやっぱり信じられないなと思いつつ、目に見えないものの大きな働きに再び胸が躍ります。

 

タルマーリーさんより、昨年12月22日をもって卸を含めたパンの発送をすべて終了するというお知らせがありました。身近で食べられる機会が減ってしまうのは少し寂しいのですが、この機会に是非智頭町に泊まって、野生の菌から生まれるサイクルを、からだでまるごと感じていただきたいと心から思います。


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